June 16, 2004

憂うつな一日

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*紫に薔薇と扇のお召し銘仙
 黒の絽の薔薇の名古屋帯

朝おきると、家の中がいやに静かで、自分の少しはやい心臓の音がなんだか大きく聞こえる。
なにかがおかしい。
寝ぼけた頭で、定まらぬ違和感をかかえたまま階段をおりる。
すでにひげは出かけた後で、がらんと広い一階にはまだ熱を持たない朝の光がさしこんでいた。
ちゃぶ台の上に、私の刺繍した布がかけてある箱がおいてある。
それを見た瞬間、大きな鼓動がひとつして、こめかみがぴくりと動いた。

あまりに静かな朝。
布を持ち上げると、昨日までうるさく鳴いていた雀が、ころりと寝ている。
真っ黒な瞳はとじてしまって見えない。
ずり落ちてきためがねをかけなおし、その手ですこし揺すってみた。
伸びかけの羽毛が柔らかく私の指の腹をおしかえす。

一人きりの朝に一人きりの死にたちあう。
私はどこかほうけて、涙も出ない。
元のように布をかける。
ただなき声だけが足りない。

投稿者 ぽよん : June 16, 2004 12:51 AM